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大阪府・学力向上への挑戦! -「学校づくり」と「授業づくり」のPDCA重視



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大阪府・学力向上への挑戦! -「学校づくり」と「授業づくり」のPDCA重視
 

 ここ数年の全国学力テストにおいて、大阪府ほど注目を集めたところもありません。全国平均を下回る結果に橋下徹知事は憤りをあらわにし、その後も、教育に関する知事の言動が多くのマスコミに取り上げられてきました。そのような中、実際の教育現場では、喫緊の課題である学力向上に向けて、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

大阪府教育委員会事務局
市町村教育室 小中学校課長
角野 茂樹さん

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「教育非常事態」からの脱却のために

 平成20年2月に就任した橋下知事は、教育への関心が高い。学力テストの結果、全国下位に位置する大阪府の状況を「教育非常事態」と評し、教育改革を声高に唱えています。これらを受けて、実際の教育現場はどうなのでしょう。
 大阪府教育委員会事務局 市町村教育室 小中学校課長 角野茂樹さんは、「平成18年の府学力テストと平成19年の全国学力テストの結果を分析し、さあ、改善に向けた取組みを始めようというとき ―― 平成20年2月に橋下知事が就任されました。府のあらゆる施策が一端仕切り直しとなり、9月から新たな取り組みがスタートしました。
 大阪府教育委員会(以下、府教委)も、大阪府特別顧問に藤原和博さん(東京都杉並区立和田中学校前校長)が、教育委員に隂山英男さんや小河勝さんが加わり、新しい体制、新しい考え方での取り組みが始まることになりました。府教委は、各市町村教育委員会に指導、助言する役目ですが、この間の大きな変化の中で教育現場に混乱を招いた部分もあったかもしれません」と振り返ります。

 府教委は、詳細な分析と新たな提言から、課題を「学校づくり」と「授業づくり」の2つに絞り、それらを改善させることで、学力向上を実現させるというアプローチ法を見出しました。
 「取り組みの効果は、学校現場の先生方や子どもたちの姿勢で変わります。府教委は、『子どもたち第一』をモットーに、現場の混乱を緩和しながらも、より効果的な戦略を組み立てているところです」(角野さん)
 それでは、大阪府の学力向上に向けての取り組みの中から、主だったものを見ていきましょう。

 

個性と積極性が光る教育改革メニュー

■おおさか・まなび舎事業

 平成18、19年の学力調査で明らかになったことは、大阪では、家庭であまり勉強しない子どもの割合が全国と比して多いことでした。また、塾などに通って長時間勉強する子どもと、まったく勉強しない子どもに大きく二分しています。府教委は、まったく勉強しない子どもをやる気にさせるにはどうすればよいか――を模索した。角野さんは、「そういう子どもたちは、あるところでつまずいたまま、止まっているのではないか。つまずきを克服し、一定のレベルまで理解を進められれば、家庭学習の充実が期待できる」と見ています。
 府教委は、放課後を利用して、児童・生徒の学力向上と学習習慣の定着を図る取り組みを始めた。平成20年11月にスタートした「おおさか・まなび舎事業」である。現在、府内の小学校529校中371校、中学校291校中237校が放課後自習室を開設しています。そこでは、学校教員と学習支援アドバイザー(学生ボランティア、退職教員など)が連携して、国語、算数・数学、英語、その他宿題の指導にあたっています。受講料は無料。
 角野さんは、「おおさか・まなび舎事業」は、特に中学校において効果的だと指摘します。「中学生ともなると、親や教師は自分を押さえつける存在として、その人間関係を縦(上下)の対立の構図として捉えることがあります。ところが学習支援アドバイザーは指導者ではなく、かといって同等でもない。つまり“斜めの関係”という絶妙な位置づけなのです。親の言うことは聞かないけれど、親戚のおじさんの言うことは素直に聞けることがあるでしょう。それと同じで学習支援アドバイザーの言うことはすんなり耳に入るんです」。学習指導アドバイザーという地域の人材の活用は、思っていた以上の効果をあげているようです。
 ところで、「おおさか・まなび舎事業」で話題になったのが塾の参入だ。「公教育に塾」と言えば、藤原和博さんの『夜スペ』(藤原さんが和田中学校校長時に実施した、塾による有料の放課後学習)を思い出す方も多いのではないでしょうか。「おおさか・まなび舎事業」での塾活用も藤原氏の提案ですが、府教委としては、全く構想にないことでした。「義務教育はすべての子どもたちに同質の教育を提供しなければなりません。塾の講師はある一定のレベルの子どもたちへの指導には長けているかもしれませんが、公の教育現場での指導力については疑問を持っていました。たとえば分数の計算式の場合、解き方のみならず、分数の仕組みから教えねばならない。そういったフォローをしてもらえるのか不安でした。」(角野さん)。
 全国学習塾協会をはじめ、話し合いに参加した塾に府教委の考えを伝え、その趣旨を理解したトライ、第一ゼミナール、SAPIXの3社が参加することになりました。
 「おおさか・まなび舎事業」で塾講師による授業が行われているのは、現在、府教委が把握している範囲で19校。角野さんも塾講師による授業を参観したとのこと。その中で当初懸念した問題点については「塾と公教育の指導者同士、共に持っているノウハウを出し合えるということで落ち着いてきた。」と、角野さんは話す。
 実は、「おおさか・まなび舎事業」は今年度で終了予定とのこと。その成果が明らかになってきた今、継続を求める声が強い。今後の事業の効果を精査して検討されることとなっています。
おおさか・まなび舎事業

■学習指導ツール

 「手前味噌ですが、絶賛しています」と、角野さんが胸を張るのが、「学習指導ツール」です。
 オリジナル教材:学習指導ツールの発端は、平成18年の実態調査の分析から、授業が活用型授業に対応できていないという課題が発見されたことに遡ります。「それならば府が示してみよう」ということになり、「大阪府学習指導ツール開発プロジェクトチーム」が結成されました。モデル授業、単元別テスト、ワークブック、学力テストなどのツールを次々と提示していきました。
 モデル授業とは、府教委の指導主事自らが学校現場に赴き、直接授業を行います。その模様を収録してWeb上で配信。その後、市町村の指導主事や教員によるモデル授業が次々に配信されています。モデル授業以外には、単元ごとに到達度を測るテストを提供、テスト結果を授業の改善に生かすことを提案しました。また、自学自習力をつけるために授業に即した内容のワークブックも提供しました。そして年度末には1年間の到達度を測る大阪府学力テストを実施することで実践と評価を効果的に組み立てたのです。府や市町村の指導主事と現場の教員が協力し、さらに大学教授が監修して作成された教材は、当然ながら市販のドリルよりも日々の教室での実践に即した“公教育のプロ”が作った教材と言えるのではないでしょうか。
 この学習指導ツールの最大の目的は、「学校現場に、学力向上のためのPDCAを意識してほしかった」(角野さん)ことにあります。学習指導ツールの活用促進やPDCAの考え方の普及のため、教職員のサポートを府の教育センターが担当。教育センターの職員は学校現場に直接指導に赴いているのですが、なんと昨年度1年間で大阪府内全ての小中学校約1,000校を訪問したとのこと。
学習指導ツール開発・実践事業

■反復学習で基礎固め

 「100ます計算」で知られる隂山英男さんと「小河式プリント」の小河勝さんが、橋下知事の要請で大阪府教育委員に就任したのは平成20年10月1日でした。両氏は基礎的学力を身につける反復学習で知られています。「案外、勉強ができる子どもが計算でつまずくことが多いのです。しかも、簡単な足し算、掛け算、余りの出るような割り算など、ごくごく簡単なところで間違っている。そこで基礎・基本の徹底として反復学習は効果的であると思いました。100ます計算からの発展形として、反復学習の教材をつくろうということになり、隂山先生、小河先生に監修をいただいて、副教材を作って学校に提供しました」(角野さん)。
 朝や昼の時間を利用して、音読や四則計算を行い、集中力を高めます。これにより、子ども自身に反復学習による成果を認識させ、学習意欲を高めるのがねらい。それに加えて基礎基本の力がどの程度できているかチェックし、つまずき個所の把握や取り組みによる成果と課題を検証することも行われています。
 現在、大阪府の小中学校の9割以上が反復学習を実施しています。そこから次へのステップは、「各学校が学校の実情に合わせて教材の内容を作り変えていくべき」と角野さんは語り、実際にそうした動きが多くの学校で行われているようです。

 

学校マネジメントは、PDCAの考え方の活用

 角野さんが、学校改革の上で最も大切と言い切るのが、学校マネジメントです。「先に説明した学習指導ツールでは、個人のPDCAをうまく回すとともに、学校の教育活動のPDCAを意識するものになっています。仮に理解できない子どもがいたら、なぜわからないのか、どうすればわかるのかを徹底して追求することで、日々PDCAを回していかないと明日のための授業ができないでしょう。これを一個人ではなく、学校全体で回していくことが、従前の教育現場では希薄だと感じていました。その改善の前提には、意識的にPDCAを回そうとするリーダーの存在がありました」。
 学校におけるリーダーシップを考える方策の一つとして、府教委は小中学校長の公募を行っています。校長には、教育に対する明確なビジョンを持ち、具体的なアクションプランを出せるかどうか、また、そのプランを現場にきちんと位置づけられるか否かの裁量が求められるのです。
 公立小中学校の校長には、現場からのたたき上げ、各自治体の教育委員会出身者などが多いのが実情。公募することによって、たとえば民間企業のマネジメント経験者など、新たな手法、新たな人脈を教育現場にもたらすことも期待していることのひとつです。
 「私の持論ですが、教育現場にある資源はそれほど多くないと思っています。校長の公募には、内外の教育資源を学校の中に取り入れて成功させたいという意図があります。校長に求めるのは、自分のプランに対する教員の意見を素直に聞ける柔軟さ。なぜなら、そういう人でなければ人をやる気にさせることができませんから。校長は、教員や生徒を“やる気”という名の舞台に立たせる演出家だと思っています」と、角野さんは語る。

 

学力向上へ向けて、確かな軌跡

 さて、全国学力テストにおいて下位からの脱却を図る大阪府の目標は、平均点到達です。大阪府の学力向上プランは平成25年を達成年に掲げています。既に、これまでの大阪府の取り組みで成果が見られているものもあります。こと、小学校の学力においては一定の改善が見られ、全国平均に大きく近づきました。ただ、中学校においては改善の兆しは見えるが、まだまだ厳しいのが現状のようです。
 「一度テストで成果が出れば、がんばる気になるから、テスト対策第一という意見と、公教育なんだから、学力が底辺にある子どもをきちんとフォローすべきという意見があります。私はどちらも正論だと思っています。ただ、繰り返しになりますが、大阪では活用型の力など、これから必要とされる学力が身についていない子どもたちが多いのは事実。府教委として、これからも新たなアクションを起こす必要があると考えています。」(角野さん)。

 当分の間、大阪の教育向上への取り組みから目が離せそうにありません。